戸川利郎

R&B史を描いた映画「ドリームガールズ」

「ドリームガールズ」はトニー賞で6部門を受賞したミュージカルを映画化した作品です。2006年公開。 脇役の歌手ジェニファー・ハドソンの圧倒的な歌唱力が絶賛され、アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。(戸川利郎)

<ドリームガールズ>
監督 ビル・コンドン
出演 ジェイミー・フォックス、ビヨンセ、ジェニファー・ハドソン、エディ・マーフィー
原題 Dreamgirls
公開 2006年
アメリカ
動画 予告編(Amazonビデオ)→

1960~1970年代のモータウン・サウンド

2007年の米アカデミー賞の6部門にノミネートされていた話題作「ドリームガールズ」(ビル・コンドン監督)。1981年初演の「ドリームガールズ」ミュージカルの映画化。全編に流れる1960~1970年代の懐かしい“モータウン・サウンド”と、ビヨンセら出演者の絢爛(けんらん)豪華なパフォーマンスは国境や言葉を越えた感動を与えてくれます。

シュープリームスがモデル
経営者ベリー・ゴーディ・ジュニア

物語は架空の黒人女性トリオ「ドリームズ」の成功と挫折、再生を描いているが、登場人物や設定はすべて実在の歌手やレコード会社を元にしています。

スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイらを育てる

「ドリームズ」は、ダイアナ・ロスが所属し、「恋はあせらず」(1966年)などの大ヒットを飛ばした「シュープリームス」。彼女たちが所属するレインボー・レコード社はスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイらを育てたモータウン・レコード。その社長カーティス(ジェイミー・フォックス)は、モータウンを全米最強の“ヒット曲製造工場”に仕立て上げたベリー・ゴーディ・ジュニアです。

舞台はデトロイト

ちなみに、1959年に自動車の街デトロイト市で創業したモータウンは、デトロイト市の愛称モーター・タウンから社名をつけました。これらを踏まえて作品をみると、より楽しめるかも。

ビヨンセ、エディ・マーフィ出演

1962年のデトロイト。中古車販売会社経営のカーティスは、公開新人オーディションで観客を沸かせた女性3人組の将来性に着目し、独占契約を結びます。3人は男性歌手ジェームス(エディ・マーフィ)のバックコーラスを務めますが、エフィー(ジェニファー・ハドソン)の歌唱力とディーナ(ビヨンセ)の美しさでたちまち話題に。カーティスが設立したレインボー・レコードの看板スターとなるのですが…。

ソウルやR&B
ジェニファー・ハドソンの歌唱力

米を代表するスター、ビヨンセの存在感もすごいのですが、米国のスター発掘番組「アメリカン・アイドル」の準優勝者ハドソンの雷神のごときゴスペル唱法に圧倒されます。マーフィの歌のうまさも特筆ものです。ソウルやR&Bの影響を受けたノリノリのダンス曲から切ないバラードまでモータウン・サウンドの魅力が存分に堪能できます。

痛烈な批判精神

しかし、この作品を傑作たらしめているのは現在の米エンターテインメント業界に対する痛烈な批判精神といっていいでしょう。メーンボーカルをディーナに譲るのを拒むエフィーを説得する場面で歌われる感動的なバラード「ファミリー」。♪我々は団結し、大空に枝を伸ばす巨木の如き家族・・・

1980年代以降のレコード業界を批判

かつてレコード会社や映画会社では、社員は家族のようなものでした。ところが1980年代以降、企業規模の巨大化や多国籍化に伴って社員は歯車と化し、社員より株主を大切にする利益至上主義の米型市場経済のなか、経営者は株価下落などを恐れて斬新な挑戦を避け続けました。その結果、米国では音楽も映画も没個性のつまらないものばかりになりました。この作品はエンタメ業界に原点回帰を促しています。



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アカデミー賞 助演女優賞大本命ジェニファー・ハドソンの来日決定

2007年2月4日

菊地凛子のライバル

日本人として49年ぶりオスカーを狙う菊地凛子(26)の最大のライバルが来日する。米映画「ドリームガールズ」(17日公開)でアカデミー助演女優賞にノミネートされた女優ジェニファー・ハドソン(25)が、PRのため13日に初来日することが3日、分かった。菊地同様、世界的には無名の新人だが、米人気オーディション番組出身で国内での認知度は抜群。アカデミー賞でも本命視されている。

前哨戦で連勝

主演のビヨンセと激しく対立する歌手を演じたハドソンは、アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞をはじめ、これまでに15冠を獲得した。

オーディション番組に出場

映画デビューを果たしたばかりだが、米国内での認知度は抜群だ。2004年、高視聴率を誇るオーディション番組「アメリカン・アイドル」で決勝に進出。最後の12人まで残ったが、優勝を逃した。同番組は投票の流れを変える3人の審査員のコメントが見どころになっている。当時、ハドソンは人気4人組ボーカルグループ「イル・ディーヴォ」をプロデュースしたことでも知られる辛口審査員、サイモン・コーウェル氏に「力不足」と酷評された。

コーウェルに皮肉

同氏に落とされたと思い込んでいるハドソンは、奮起した。「ドリームガールズ」も、782人が参加したオーディションを勝ち抜いた。各賞にノミネートされるたびに「私は不可能なことに達した気がします。コーウェルさんが間違っていると立証することでもあるのです」「もしオスカーをもらったらコーウェルさんに感謝したい。彼が私の闘争心に火を付けてくれたからです」など、同氏への皮肉を連発。その様子が番組のファンも刺激して、関心を高めている。

アメリカンドリームの体現者

初来日について「『シカゴ』『オペラ座の怪人』などがヒットしたように、ミュージカル映画が受け入れられる土壌がある」と話し、14日には都内で会見を行う。アカデミー賞授賞式は25日(日本時間26日)。残り2週間を切ったところで、アメリカンドリームの波に乗る強敵がやってくる。

ジェニファー・ハドソン(Jennifer Hudson)とは

1981年9月12日、シカゴ生まれ。貧困地区で生まれ、7歳から教会で歌い始める。中学時代からタレントショーやミュージカルに出演。地元で上演された舞台「ビッグ・リバー」でプロデビュー。お金を稼ぐため、02年にはロスのディズニーランドのクルーズ船で、主演ボーカリストとしてアルバイトした時期もある。

「アメリカン・アイドル」とは

アメリカン・アイドルは、2002年からFOXテレビで放送されている視聴者参加型オーディション番組。投票は電話で行われ、投票総数は1度の放送につき3000万件に達することも。決勝に残るのは12人。12週間にわたって決勝オーディションが行われ、毎週1人ずつ、最下位の得票数の人が落とされていく。優勝者はレコード会社と契約して歌手デビューできる。対象は米国籍の16~28歳までの男女。条件は「歌がうまいこと」。約10万人の応募がある。審査員は3人いるがパフォーマンス後にコメントするため、投票に大きな影響を及ぼす。

アカデミー助演女優賞予想

ことごとく賞を総なめしてきたハドソンが大本命。「バベル」からはバラッザと凛子の2人がノミネートされたため、票割れが起こる可能性がある。「バベル」にも出演し、他の作品で候補入りしたブランシェットは2年前に同賞を受賞しているため、可能性は低い。一方、ブレスリンが注目度大。1973年「ペーパー・ムーン」で同賞を受賞したテイタム・オニールの最年少受賞記録(10歳と148日)に及ばないものの、子役にも十分チャンスがある。



ブロードウェイ・ミュージカルの日本公演

2016年6月

会場は東京・渋谷の東急シアターオーブ。日本語字幕付き。

ニューヨークの本場ブロードウェイの劇団が来日。スターを夢見る女子3人の友情と確執を描いた「ドリームガールズ」は、映画にもなった名作ミュージカル。今回が3度目の来日公演。2010年版のエフィー役が好評だったモヤ・アンジェラさんの再登板が見どころです。

舞台は1960~70年代のアメリカ。ディーナ(ジャズミン・リチャードソン)、ローレル(ブリトニー・ジョンソン)、そしてエフィー(モヤ・アンジェラ)の3人組は、人気歌手のバックコーラスになり、スターへの一歩を踏み出します。

エフィーは辣腕(らつわん)ぶりを発揮するマネジャー・カーティスにメロメロ。ところが、3人組を単独で売り出すことに決めたカーティスは、歌唱力抜群のエフィーではなく、美形のディーナをリード・ボーカルにしようと言い出します。まるでアイドルグループのセンター争いのような1幕。緊張感が走ります。

そして後半の2幕。いったんは落ちぶれたエフィーが、「アイ・アム・チェンジング(私は変わるの)」と歌い上げるシーンでは、劇場いっぱいにモヤさんの美声が響き渡り、その迫力に圧倒されます。